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「青い星まで飛んでいけ」読了・紹介 (2)

【青い星まで飛んでいけ:小川一水 著】読み終わった.短編集で,

  1. 都市彗星のサエ
  2. グラスハートが割れないように
  3. 静寂に満ちていく潮
  4. 占職術師の希望
  5. 守るべき肌
  6. 青い星まで飛んでいけ

の6篇で構成される.これの続き.

ネタバレを含むので格納.

占職術師の希望

あらすじ

紺野哨平は他人の今の姿と天職についているときの姿がダブって見える男である.そのズレを見ることで,他人の天職を言い当てることができる.ある日,自らが天職を告げたことで画家となった少女,寛奈とともにテレビ局へ絵を持っていった時に,爆弾テロリストが天職で,しかもその天職についている男を見てしまう.爆弾テロはテレビ局で実行されるが,哨平と寛奈の機転で被害を少なくすることに成功する.爆弾テロリストと一緒に居た男はカルト宗教のリーダーで,彼は4つの天職がある天才だった.哨平はこの事態をなんとかしようとしている寛奈を見て,自らにできることをしようと新宿駅へ向かう.彼はテロリスト狩りが天職の男を探していた.哨平が天職を見出した者は,その天職に付きやすくなるという.彼は適任者の名前を警察に告げる.

哨平は肝心の自分自身には天職がなく,適材適所の手助けをするしか能がないという.天職につけるのなら,幸せになれるはずだと言う哨平に対して,寛奈は「そのことに縛られすぎている,人は職を持つ以前にまず人間だ」と言う.哨平は皮肉げに笑い,顔を背けた.

感想

他人の天職が見える男の話.人は職を持つ以前にまず人間だという寛奈に対してのリアクションは,どういう心境であったのかは複雑だ.その通りだと言ってしまうと,自分に天職がないという悩みが解消する代わりに,自分がしてきたことは何だったのかということになる.それは違うと言ってしまうと,天職がない悩みはそのままで,無能感は消えない.どちらにしても,哨平にとっては自分の存在意義を問われる質問である.

天職が見えるという仕掛けの活かし方が面白く,結構いい作品.この短編集の中では2番めに好きな話である.

守るべき肌

あらすじ

計算機上に仮構された人類は,既に退屈でたまらない日常への変化を求めていた.タウヤは計算機情に存在する都市・ステインレスの住人としては珍しく,辺縁域で面白いものを探すのが趣味の男だった.ある日,彼は辺縁域でツルギと言う少女を発見する.ツルギは計算機上の全人類へ呼びかける手段をタウヤへ問う.タウヤは面白いことになりそうだという予感とともに,彼女を公有マップであるセントラルへと連れて行く.ツルギはそこで,全計算機人類に対してあるゲームへの参加を「全人類を救うため」と銘打って呼びかける.

ツルギが用意したゲームは,タワーディフェンスだった.拠点の城を守る単純なゲームだが,物珍しさから大勢の計算機人類が参加する.ツルギの目的がわからないまま,お祭り騒ぎに乗じて楽しむタウヤたちだったが,タウヤの友人がツルギが「インフラストラクチャー」であることを暴く.インフラストラクチャーは計算機人類を維持するための装置であり,人間ではない.タウヤがツルギにそのことを問うと,彼女は失敗すれば自分が死んでしまうことを明かす.タウヤはツルギが人類かどうかと言う問題を棚上げして,ツルギを悲しませないために戦い続けることを選ぶ.

興ざめして防衛戦の参加者が減ったことで,ゲームは危機的状況に陥る.ツルギは計算機人類の計算資源を徴発する処理であるNHB措置を計画する.実はツルギの防衛戦はゲームではなく,計算機人類の計算資源を使って太陽系を防衛するためのものだった.太陽系の危機への対応のためNHB措置を実施しようとするツルギに対して,計算機人類は拒否権を行使する.太陽系への侵略者の目的は軽金属であり,ステインレスの計算機は太陽系が壊滅しても影響を受けないとの判断のためだった.動揺するツルギに対して,タウヤは彼女が物理人類であることを見抜く.ツルギは物理人類が計算機人類にコミュニケーションを取るための装置として,自分を作ったことを明かす.タウヤは生贄として育てられたツルギの境遇に憤る.

タウヤは最後まで戦うことを決める.既に太陽系に迫った敵を迎撃するのに小細工は必要なく,タウヤたちは直接戦闘機へと意思を乗せて戦う.しかし防衛線は後退し,ついにツルギの物理的実体がいる拠点へと敵が迫る.タウヤは物理人類を脅し・交渉してツルギを解放するよう要求する.物理人類は最終的にそれを受け入れて,ツルギは計算機人類へと転算される.太陽系は壊滅するが,タウヤはツルギを守ることが出来た.その暖かな肌を.

感想

この話では「人類とは何か」という話が一応の主題に据えられている.タウヤたち計算機人類は計算機上の人格こそが人類であり,インフラストラクチャーはそれを維持する装置に過ぎないと考えているが,インフラストラクチャーは物理人類こそが真の人類であり,計算機人類は架空の存在に過ぎないと蔑んでいる.この2つの考えが和解することは最後まで無い.和解がない上で,コミュニケーションの道具として生み出されてしまったツルギをタウヤが引き込む話として読むと,非常に個人的なラブストーリーである.一読して「エンダーのゲーム」を下敷きにしていることがわかるが,ゲームの中を現実として生きる計算機人類にとっては現実世界など何の価値もなく,物理的実体に固執する人類こそが誇りに囚われた存在だという描かれ方は面白い.

はじめに読んだときはあまりおもしろい話に思えなかったが,読み返してみるとなかなかおもしろい話だった.退屈に何千年も耐えてきたにもかかわらず,思慮に富んでいて粘り強いタウヤは主人公に値する稀有な人物だろうと思える.

青い星まで飛んでいけ

あらすじ

ホモ・エクスプロレルスを名乗り,1人で人類の後継種を自称するエクスは,人類がその膨大な記憶を託した地球外知性探査機である.二千隻の宇宙船の群れで構成されたエクスは,常に探査を続けている.地球外知性との接触がうまくいくかはまちまちで,喧嘩別れに終わることもままある.技術力よりも知性の性向,つまり性格こそが重要で,要するに性格が面倒な相手とは喧嘩別れになりやすいのだった.

エクスの知的生命体との接触がうまくいったりいかなかったりしている様を見て,上帝(オーバーロード)はエクスに語りかける.なぜエクスは単独で十分に生きていけるのに,傷つくリスクを負ってまで接触を図るのかと.エクスはそれが自らのやり方だからと答える.一方で,上帝はエクスに他の知性への恐れを指摘する.文明レベルが相当に劣った相手に対しても,接触を恐れていることは図星だった.しかし,エクスにも何故自分が恐れを抱いているのかはわからないままだった.

旅を続けるうち,エクスは滅んだ文明を多く発見する.接触に成功したシキシーと呼ばれる種族と情報を交換するうちに,それらの滅んだ文明はヌビワ論によって破滅したのだということを知らされる.ヌビワ論とは,触れた文明が高い確率で自滅するという危険な論理であり,それを広めるヌビワ論者は未だ見つかっていない.シキシーと手分けしてヌビワ論者を探すうち,ナウチルス・ネルリパルゼという種族がヌビワ論者であることがわかる.ナウチルス系種族は他種族を攻撃し,乗っ取ることで生き残る危険な種族である.その一派であるネルリパルゼがヌビワ論者であった.エクスとシキシーは複数種で共同してネルリパルゼを壊滅させる.シキシーは友好の証にエクスを母星へと招待し,エクスはお返しに融合を申し出る.融合とは,エクスのすべての情報を相手種族に与える代わりに,その種族最高の技術を持って新世代のエクスを再建させることを言う.シキシーはこの申し出を受け入れる.分解され停止したエクスの意識が再び流れ出す時,シキシーはエクスの出自に気づいていた.エクスはナウチルスの一族だった.シキシーはこのことを黙っていたことに失望し,融合を拒否する.元通りに組み直されたエクスは,悲しみに暮れつつシキシーの母星を離れる.

そこへ上帝がやってくる.なぜエクスが知性との接触を恐れているのか,それはナウチルスに食われた記憶によるものだと上帝は指摘する.エクスは人類の内向性・外向性の特徴のうち,外向性しか与えられなかった.しかし,恐怖を得たことによって再び内向性と外向性の組み合わせを得るに至った.2つの性向を持ち合わせ見聞を広めるのは上帝の仕事だが,エクスはその後継者にふさわしいと上帝は言う.エクスはシキシーとの融合を拒まれた悲しみが,上帝に認められた事により濯がれるのを感じ,ナウチルスの他の一派を倒すため,新たな星系を探査しに向かう.

感想

こちらは「幼年期の終り」の要素として上帝(オーバーロード)が登場する.人類のいかなる武器でも傷つけることが出来ない上帝の円盤は,相変わらずエクスのいかなる手段でも傷つけることは出来ないようだ.しかし,幼年期の終りでは,上帝は優れた技術を持ちながら,進歩し尽して進歩の余地がないことへの嘆きがあり,その点では人類を羨んでいることが描かれていた.この作品でもその点を継承して,エクスが再び真に人類的な側面を取り戻したことで,後継者として認めたのだろう.エクスの紆余曲折の旅路をずっと眺めていたのは,他でもない上帝なのだから.

本筋とは関係のない部分ではあるが,知性間のコミュニケーションの描かれ方が面白い.シキシーとの最初の接触は攻撃によるものだが,エクスが正確に戦力を測った上での反撃しかしていないことから,敵対的ではなく対話の余地があることをシキシー見抜くシーンはとても良い.エクスが軽薄でラフな言葉遣いをするので,ラノベ的な軽さが鼻につく人には読み始めが辛いかもしれない.しかし,これまでの短篇もそうだが,この作者の作品では「軽薄な語り口」はかなり意図的に用いられている部分があり,誰のセリフでも構わず軽薄なわけではないので,その点を考えて読むと良いと思う.


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