Starlight Ensign

「青い星まで飛んでいけ」読了・紹介

【青い星まで飛んでいけ:小川一水 著】読み終わった.短編集で,

  1. 都市彗星のサエ
  2. グラスハートが割れないように
  3. 静寂に満ちていく潮
  4. 占職術師の希望
  5. 守るべき肌
  6. 青い星まで飛んでいけ

の6篇で構成される.

全体的に文章は口語的表現もあり,軽快である.しかし,口語的な表現が地の文に出てくるのは,語り手である主人公の性格が陽気である場合に限られているようである.その意味では,文章の雰囲気が作品によって変わる著者のようだ.また,壮大な仕掛けや絶大な技術力を持った世界を背景としつつ,話の本筋はあくまで主観的満足や個人の想いにフォーカスしたものが多い.ハードSF系では,個人の想いに焦点を当てたとしても,結局はその個人の行動と人類の命運が一緒になってしまったりすることが多いので,この点も特色と言っていいと思う.

ネタバレを含むので格納.長くなったので前半3篇について書く.続きはこれ

都市彗星のサエ

あらすじ

バラマンディは彗星に作られた都市である.氷の塊を他の天体へと投射することを稼業としており,他のどの天体からも離れた位置にある.

バラマンディに住む14歳のサエは,ある日ダクトに転落して政府が所有する緩衝林に迷い込み,そこでジョージィという少年と出会う.サエはジョージィにい返されるが,その後も彼のことが気になり,再びダクトへの侵入を試みる.友人たちから,わざわざ危険に飛び込む意味がわからないと反対されながらも,サエは2回目の遭遇を果たすが,今度はジョージィに出ていくよう強く脅される.なかなか出ていかないサエに対して,ジョージィは自分が火星に脱出するためのポッドを制作していることを明かす.サエは自分も乗りたいと言うが,ジョージィに覚悟が足りないことを示されてしまう.

サエはバラマンディから出る方法について調べるが,そんなものは現時点では存在しないことを知る.インフラの維持に関わる世襲職の人間は,ここから出ることが出来ないと知り,ジョージィが自分とは比べ物にならない息苦しさを覚えていることを悟るも,サエの思いは変わらず,再びジョージィに会いに行く.サエはジョージィの前でいきなり服を脱ぎ,密室で長期間2人で居ても平気だという覚悟を示す.ジョージィは全然論理がつながっていないと指摘するも,ポッドへの同乗を許可し,1人用として作っていたポッドを2人用に改装し始める.ポッドの制作と試験運転を終えた頃,サエは警察に捕まり外出を禁止されてしまう.

出発の日,サエはジョージィの元へ行く.ジョージィはサエが捕まってから1人でポッドの艤装と改修を進めていた.ポッドの偽装は最終的にバレてしまい,ジョージィは無理やりスロワーを起動させてポッドの投射を試みる.動き出したポッドに2人とも乗ることは出来ず,サエはジョージィをポッドに押し込んで,自らはバラマンディに残ってしまう.ジョージィは到着した先の火星で罪人として収監され,サエ自身も少年刑務所に入ることになる.しかし,刑期を終えて出所したサエを,周囲の人達は英雄として出迎える.誰もが夢見てはいたが実行しなかったことを,実行しようとした人物として,周囲はサエのことを尊敬していた.

数年が流れ,外へ出たいという情熱を忘れていたサエは,ニュースで火星の衛星であるフォボス監獄での気密破壊事故の報道を見る.そこでは囚人であるジョージィが負傷者を保護したというニュースが流れていた.事故から救助が来るまでの3日間,何を考えていたかというインタビュアーの質問に対して,ジョージィは「待ってる女のこと」と答える.サエは目を覚まし,ジョージィの元へ行く決意を新たにする.

感想

バラマンディの人たちは人懐こい,バラマンディでは刺激の強いコンテンツが避けられている,等の描写がわざわざ出てくるところを考えると,閉鎖空間ゆえの息苦しさが強調されている.閉鎖的な空間,被差別民の少年,温室育ちだが好奇心の強い少女,と言った組み合わせは,舞台がSFであることを除けばジュブナイル小説の王道であると思う.村社会から抜け出そうとあがくガール・ミーツ・ボーイものとしても面白いし,スロワーを騙してなんとか火星へ向けてポッドを投射しようとするシーンは緊張感が有り,非常に読み応えがある.2人が離れ離れになる展開は正直予想していなかったし,まさにこれからの展開が気になるところで終わるので,はじめに読んだときは面食らった.しかし,これ以上続けても中だるみするとも思えるので,短篇としての完成度はとても高いと思う.

正直,この話がこの短編集で最もよく出来た話だと思う.

グラスハートが割れないように

あらすじ

大学生のコースケには,高校生の彼女である時果がいる.時果はグラスハートという,地衣類が瓶詰めされたものに熱中しはじめる.グラスハートは人間の祈りの力で増えるとされていて,そのまま生で食べる事ができるという.時果はグラスハートにのめり込み,次第にグラスハートしか食べないことで衰弱していく.コースケはグラスハートについて調べるが,そこには容器の中身が勝手に増えるという記述や,毒性はないという記述しか見つからない.時果は次第にグラスハートをコースケにも食べるよう要求してきて,コースケもそれに従う.しかし,コースケはある日時果が彼女のクラスメイトに「触らないで」と言われている場面に遭遇してしまう.思わず「そんな意味のないことはやめろ」と言ってしまうコースケに対して,時果は自分が何に対して祈っているように見えたのかを問う.コースケは受験や時果の母の仕事の苦労,祖母の病気,友達付き合いがうまくいくように祈っているのだと思っていたと答えるが,時果はコースケの幸せを祈っていたと答える.コースケは,全く思いが伝わっていないことに気づいた時果が列車へ身を投げようとしていると思うが,時果はグラスハートを破壊するだけだった.時果は狂っては居なかった.自分を欺き続けていたことに気づいていて,そこから立ち直ったのだ.

感想

疑似科学を主題としたSFはなかなか見ない.SFの中で疑似科学を出してしまうと,嘘を付くことができなくなって,他のSFギミックが使えなくなってしまうからだろう.その点,この作品は疑似科学に焦点を絞っていて,SF的な仕掛けは(エピローグの一部,それも本筋には関係のない部分でしか)出てこない.作中に出てくる疑似科学は,「勝手に増える」という記述そのものには嘘がなく,毒性もない.つまり,完全に無害であるがゆえに悪質なものとして描かれる.嘘がないがゆえに,縋るものを求める人の心に入り込んでしまうものとして描かれている.擁護派も懐疑派も,議論をしているが,それはのめり込んだ人を現実に引き戻す助けにはならない.

悪い話ではないし,疑似科学を扱ったものは珍しいので,その意味での真新しさはある.ただし,「だから何」という域を出ない話でもあるので,評価が難しい.

静寂に満ちていく潮

あらすじ

体を造り替えた人間(ヌーピー)であるテミスは感交(シンフォス:神経の接続によって行う性交のようなもの.身体的接触に依存せず,天体間での通信でも行える)に耽っていた.彼女は趣味で仕込んでおいたSETIに反応があったことで,異星人であるレクリュースと出会う.レクリュースは仔馬ほどもある甲虫の姿をしていて,視覚を持たず,触覚に従って生活する種族だった.この頃の人類はすでに無補給,全環境適応,不老の3つを達成しており,暇を持て余している状態だった.レクリュースの種族は,することがなく死を迎えるしか無いのなら,卵へすべての記憶を継承することを選ぶという.レクリュースからはワープ機関のようなオーバーテクノロジーを得る事はできなかったが,テミスは元よりそんなものを求めては居なかった.世界を広げる手段なら,既に揃えてしまっている.人類のすべきことは,世界を広げることではなく,広げた世界で何をするかを探すことだった.テミスは仲間たちと話しているうちに,レクリュースと感交することを思いつく.テミスは記憶の継承という使命感ではなく,個人の欲求としての繁殖行動をレクリュースに打診し,レクリュースはそれを受け入れる.テミスは物理的な移動による広がりがなくても,宇宙に満ちていけるという可能性を確信する.

感想

この短編集で最もぶっ飛んだ話.宇宙人とセックスする話である.正直,最初の一読ではよく分からなかった.他の篇と合わせて考えると,著者は閉塞感や,技術的な極限に至っているがゆえの可能性のなさに対してのこだわりがあるようだ.この話で,そのこだわりが上手く表現されているかどうかは,疑問が残るが.

残りは別の記事で.


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